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アフリカ大陸のなかでも独自の歴史を持ち、古くからキリスト教信仰を受けいれてきたのがエチオピアだ。この国がキリスト教を公認したのは4世紀で、ローマ帝国やアルメニア帝国と並んでもっとも早くキリスト教化された国のひとつとなった。
ところが5世紀半ばになると、エチオピアでのキリスト教の立場はあやうくなる。バチカン公会議で異端と見なされるようになったのだ。以来、独自の道を歩み、エチオピア正教としてアフリカ大陸内で発展を続けることになった。
エチオピア正教の最大の特徴は、キリスト教でありながら『旧約聖書』を重要視する点にある。
『旧約聖書』「列王記」を見ると、エチオピアのシバの女王がソロモン王に拝謁するためにイスラエルを訪れ、王の知恵と事績に感嘆して帰ったという記述もあるから筋金入りだ。
しかもエチオピアに伝わる叙事詩『ケブラ・ナガスト』では、シバの女王とソロモン王の間には子供があり、エチオピア初代国王メネリク1世になったとされている。
興味深いのはこのあとで、即位前にイスラエルを訪れたメネリク1世は、ソロモン王からモーセの十戒石板が収められた契約の櫃(アーク)を与えられ、それをエチオピアに持ち帰ったというのだ。
読者もご存じのとおり、契約の櫃は「失われた聖櫃」とも呼ばれ、古代イスラエル王国の崩壊とともに歴史の闇に消えてしまったとされる。今も神殿跡に眠っているとも、テンプル騎士団によって持ちだされたとも、あるいは海を渡って日本の剣山に隠されているとも、さまざまに噂されているが真偽は不明だ。

さて、その契約の櫃だが、現在もエチオピア北部の古都アクスムのシオンの聖マリア教会に眠っているというのだ。
4世紀に建てられた教会だが、女人禁制とされ、観光客であっても男性しか入ることができない。契約の櫃はこの教会の小礼拝堂でたったひとりの番人によって厳重に守られている。完全なる非公開とされており、修道士でさえ見ることはかなわない。
したがって契約の櫃を目にすることはできないが、それでも古都の風は、旅人の心を癒してくれることだろう。


月刊ムー2023年3月号より
中村友紀
「ムー」制作に35年以上かかわるベテラン編集記者。「地球の歩き方ムー」にもムー側のメインライターとして参加。
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