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都市伝説研究家の宇佐和通氏の新刊「陰謀論時代の闇」から、知っておくべき陰謀論的常識を紹介。
MKウルトラとは、CIA(中央情報局)の科学技術本部が極秘プロジェクトとしてタビストック人間関係研究所と共同で実施していた洗脳実験のコードネームだ。アメリカおよびカナダの国民を被験者として、1950年代初頭から少なくとも1960年代末まで行われていたとされている。1973年、当時のCIA長官リチャード・ヘルムズがすべての関連文書の破棄を命じたが、1975年に数枚の文書の存在が確認され、アメリカ連邦議会において公開されることになった。


MKウルトラには、1945年に設立された統合諜報対象局によるペーパークリップ作戦が深く関与しているといわれている。このコードネームにピンと来る人もいるに違いない。ペーパークリップは、かつてナチ政権に関与した科学者を募集する目的で展開され、拷問やマインドコントロールの研究者、ニュルンベルク裁判で戦犯とされた研究者も含まれていた。
古くは1940年代までさかのぼることができる陰謀論が、2023年の今になっても話題になっているのはなぜなのか。それは、ペーパークリップから始まってMKウルトラになったプロジェクトが、いまだに生き続けているという話があるからだ。そして、古い陰謀論の新しい位相には、ポップカルチャーという今日的な要素が盛り込まれている。
2018年のグラミー賞で、ラッパーとして活躍するカーディ・Bがレッドカーペットでインタビューを受けた際、ちょっとした出来事があった。質問に答えている流れで、〝このタイミングで?〞という瞬間にインタビュアーとはまったく違う方向に視線を向け、数秒間にわたって虚空を凝視し続けたのだ。一部の陰謀論者は、この瞬間を見逃さなかった。なぜか、こうした反応がMKウルトラで何らかのプログラミングを受けた者に特有の〝バグ〞のようなものだからだ。
前述のとおり、MKウルトラに関する陰謀論は今も根強く生き続けている。その進化の端的な一面が、カーディ・Bの行動に出たということなのだろう。MKウルトラ陰謀論の枠組みの中では、セレブやインフルエンサー、そして政治家の公の場での奇妙な行動はほとんどがプログラミングのバグによるものとして理解される。
MKウルトラ陰謀論がなくならない第一の理由は、論拠とされる事実があるからにほかならない。LSDの大量投与によって思考パターンを作り、キーワードによって特定の行動に出るようにプログラミングしておくというのがMKウルトラの目的だった。なぜそんなことが事実と言えるのか。1975年に公開された書類から明らかになり、徹底的な調査で掘り起こされたものだからだ。
非人道的な実験の内容が明らかになり、責任を取るべき立場にある者たちが糾弾されるのは決して悪いことではない。しかし、知識の共有と拡散の舞台がポップカルチャーとなると、話は少し変わってくる。MKウルトラと真摯に向き合って研究を行っている人たちとの思惑とはまったく異なる方向に話が進化していってしまった。さらに、家庭用コンピューターやスマートフォンの普及により、いい意味でも悪い意味でも特定の情報に対するアクセスがきわめて容易になった。そういう意味で考えれば、MKウルトラに関する陰謀論はきわめて今日的であると言うこともできるだろう。
ポップカルチャーの中ではかなり説得力がある陰謀論として存在し続けてきたMKウルトラは、2000年代に入って制作されたヒットドラマでも取り上げられ、それによってさらに認知度が上がっているのが事実だ。
Netflix の『ストレンジャー・シングス』というSFドラマをご存知の方は多いはずだ。基本的コンセプトがMKウルトラやその後実施されたスターゲート・プロジェクトといったマインドコントロール関連プロジェクトをモチーフにしたものであることはたびたび指摘されている。生々しい描写も少なくなかったため、政府の陰謀を明らかにするために意図的に制作されたドラマなのではないかという別方向の陰謀論も生まれたぐらいだ。そして、このドラマによってさらにエスカレートした状況が、まったく異なるジャンルに飛び火した。
2016年あたりから、MKウルトラの影響を受けているとされるセレブについての書き込みが各種SNSで目立つようになった。レディ・ガガやジャスティン・ビーバー、テイラー・スウィフトなどショービズ界のスーパースターが多い。冒頭で紹介したカーディ・Bの話も、こうした流れの中で生まれたものだろう。
しかし、マーク・デビッド・チャップマンの名が挙げられているのが気になる。気になるというのは、MKウルトラ陰謀論にいくばくかのリアリティを感じてしまうという意味だ。ジョン・レノンを射殺したチャップマンは、警官が現場に到着するまでその場にとどまり、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を読んでいた。以来、この小説はさまざまな映画でテロ行為への〝スイッチ〞の役割を果たすもの、あるいはテロリストの資質を持つものの特徴として描かれている。
事実として存在したマインドコントロール・プロジェクトに関する陰謀論が今後どのような変容を見せながら進化していくのか、気になるのは筆者だけではないはずだ。
<書籍情報>
「陰謀論時代の闇 日本人だけが知らない世界を動かす〝常識〟の真相」
宇佐和通・著/笠間書院
https://shop.kasamashoin.jp/bd/isbn/9784305710024/

宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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