便所で尻を撫でるのは妖怪か変態か? 厠の怪異・2発目/黒史郎・妖怪補遺々々
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世界の神話や伝承に登場する幻獣・魔獣をご紹介。今回は、神の手も及ばぬ原始の混沌「レヴィヤタン」です。
ヘブライ語でリヴヤーターン、英語でリヴァイアサンと呼ばれるレヴィヤタンは、『旧約聖書』などで言及される海の怪物である。
語源はヘブライ語の「ラーヴヤー」すなわち「絡みつく動物」。ヘブライ人は古代のバビロニアからこの怪物に関する知識を取り入れたらしく、してみればレヴィヤタンの原型はバビロニアの創造神話に登場する神もしくは怪物、たとえばアッカド神話の女神にして龍とされるティアマトや、ウガリット神話で語られる7つの頭を持つ「原初の蛇」ロタンなどのような存在であったと考えられる。
古来、レヴィヤタンとは人間精神の古層に沈潜する開闢以前の「混沌」の表象であった。この「混沌」すなわち原初的な力が、ヘブライの神ヤハウェによって打ち負かされ、抑制されるというのが本来のヘブライ神話であったらしい。
後に『旧約聖書』が書かれるころになると、創造以前の混沌と神との戦いという神話は周縁に押しやられ、このレヴィヤタンもまた神ヤハウェの被造物のひとつと見做されるようになる。『ヨブ記』においてヤハウェはレヴィヤタンの「からだの各部について、私は黙ってはいられない。力のこもった背と見事な体格について……歯の周りには殺気がある。背中は盾の列……口からは火炎が噴き出し、火の粉が飛び散る。煮えたぎる鍋の勢いで、鼻からは煙が吹き出る」と誇っていう。
かつては強大なる原初の混沌であったレヴィヤタンは、ここでは大人気ない神ヤハウェの単なる自慢話のネタにまで落ちぶれているのだ。

17世紀イングランドの哲学者トマス・ホッブズは、教会権力の軛から解き放たれた「国家」を「リヴァイアサン」と呼んだ。彼によれば国家=リヴァイアサンなくしては、平和もなく、人間の生存もありえない。
「国家と呼ばれる偉大なリヴァイアサンは……疑いなく一個の人工人間に他ならない。ただ、この人工人間は、自然人よりは大きくて強く、自然人を保護し防衛することを意図している……平和と防衛とを人間に保証する地上の神であるというべきだろう」
かくしてホッブズの思想とともにレヴィヤタンは再び地上の神として復権した。以来300年、人間はただひたすらこの地上の神の構築・維持・拡大に狂奔し、それによって生き伸びてきたのである。

松田アフラ
オカルト、魔術、神秘思想などに詳しいライター。
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