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サイエンスライター・久野友萬の新著『ヤバめの科学チートマニュアル』より、編集部が“ヤバめ”のテーマを厳選! 一部を抜粋して特別公開!
ブラックホールが星が潰れてできる超重力の点だということはご存じだろう。
ブラックホールにはよくわからない点が非常に多いが、そのひとつに情報問題がある。
宇宙の始まりには物質もなく物理法則もなく空間もなかったらしい。
何もなかったわけだが、何もないところから宇宙が生まれるのは変だ。ちゃんと何かはあった。何があったのかと言えば、真空のエネルギー(ゼロポイントエネルギーとも呼ぶ)という真空自体に隠されたエネルギーだ。
真空には、何もないように見えてエネルギーが満ちている。

ブラックホールの超重力は周囲の空間から真空のエネルギーを実体化させる。何もないところから光が生まれるのだ。核爆発では、物質が光に変わるが、ブラックホールの周囲では重力が光を生み出す(車いすの天体物理学者、ホーキング博士が発見したのでホーキング輻射という)。ブラックホールはブラックではなく、明るく光っているのだ。
無=真空から有=光は生まれても、無を有に変えるためにエネルギーは必要だ。それがブラックホールの超重力だ。ブラックホールは光を生み出し、その分だけエネルギーを失う。
エネルギーは使えばなくなる。何千億年後かはともかく、光を出し続けたブラックホールはいつか蒸発してなくなる。
ブラックホールの蒸発は、水が蒸発すると蒸気になるのは違い、ブラックホールが吸い込んで来たものも含めて一切合切がこの宇宙から消滅することを意味する。これを情報問題といい、どんなに小さなものでも宇宙から消えてしまうと困ったことになる。宇宙が閉じた世界ではなく、謎の異次元宇宙とつながっていることになるからだ。
それは困るのだが、計算上、ブラックホールは蒸発して消えてしまう。
情報問題はそもそも発生しないという研究もある。
理化学研究所の横倉祐貴上級研究員らは、ブラックホールに吸い込まれた物質は、殻のように事象の地平を覆い尽くし、情報は失われないと発表した。

ブラックホールにある事象の地平線(ここから先は物理法則が通用せず、向こう側がどうなっているのか、一切関知できないという境界線)では、重力が無限大になるため、相対性理論に従い、時間の進み方も無限に遅くなる。ブラックホールは何もかもを吸い込むが、事象の地平で時間が無限に引き延ばされるため、吸い込んだ物体は止まってしまう。ギリギリで落下できないのだ。
ブラックホールに吸い込まれたすべての物質は超圧縮されて、表面に殻となって保存されるらしい。膨張する宇宙の変移も同様に殻に記録されるはずで、そうなるとブラックホールはいわば宇宙の記憶媒体で、年輪のように宇宙の変化を刻み続ける装置ということになる。
量子力学には観測者問題という、いまだに論議しているテーマがある。量子のスケールではすべてのものは波になったり粒子になったりとゆらいでいる。波を粒子へ瞬時に変えるのが観測者の存在で、誰かが見ていると(人間ではなく観測装置でもいい)波は粒子になる、放っておくと波のままだ。
一般的には観測に伴う操作が量子に影響を与えるために、その瞬間に波が粒子になると考えられている。対象との距離を測ろうとすれば、レーザーや超音波を照射する必要があるし、写真を撮るには光の反射が必要になる。量子に影響を与えずに観測はできないというのが、一般的な観測問題だが、研究者の中には観測するという行為自体が影響を与えるという人もいる。さらに観測という行為が、観測される前の量子の状態を変えるというタイムマシンのような説もある。たとえば米国チャップマン大学のアハラノフは、量子は原因と結果の関係を変えることができると主張している。
なぜそんなことが起きるのか、量子は観測者がいることがなぜわかるのか、いまだに解決されていない。しかし現象としてたしかに起きる。

宇宙にも観測者問題は適応できるのではないか? 宇宙が量子力学的にゆらいでおらず、安定して消えないのは、ブラックホールという観察者がいるからではないか? という話がブラックホールを情報の記録装置とすると出てくる。
シカゴ大学のデイン・ダニエルソンらはブラックホールが、ソフトヘアという情報の殻とはまた異なる方法で宇宙の情報を記録、ゆらぎを収束させるとしている。
ブラックホールが観測者なら、あの黒い穴の中に宇宙の情報を蓄えながら、じっと我々を観察していることになる。
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久野友萬(ひさのゆーまん)
サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。
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