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「貞子」と聞いて、ホラー映画『リング』を思い浮かべる人は多いだろう。 「貞子」にはモデルとなった人物がいる――それが本稿における主人公・高橋貞子である。 明治・大正期に「千里眼」として名を馳せた彼女だが、その半生は多くの謎に包まれている。ジャパニーズホラーにおいて、最も有名なキャラクターとして認知されている貞子のモデルとなった霊能者・高橋貞子。彼女の知られざる実像に迫ってみたい。
鈴木光司氏の小説『リング』以降、呪いの代名詞となった「貞子」は、映画やテレビなどのエンターテインメント業界で、オカルト系としては過去にないほどのブームを巻きおこし、不動のホラーアイコンとして定着した。
日本だけではない。映画第1作『リング』は、平成10年に公開されて興収10億円のヒットを記録したが、翌年には韓国が早くもリメイク版を製作。ほどなくハリウッドもリメイク版で大ヒットを飛ばして、〝ジャパニーズホラーブーム〟を生み出した。
日本では『リング』以降、『らせん』『リング2』『リング0』『貞子3D』など数々の〝貞子モノ〟が生み出され、シリーズ最新作の『貞子DX』もこの10月に公開が予定されている。
この間、貞子とは何者かについて、さまざまな意見が出されてきた。貞子の母親である山村志津子は、心理学者で東京帝国大学助教授の福来友吉に見いだされ、「千里眼」として名を馳せた御船千鶴子がモデルとみて間違いないが、24歳で服毒自殺した千鶴子に子はない。そこで、貞子は、同じく福来の念写実験に協力した高橋貞子ではないかという説も飛び出し、最新作もそのように謳っている。
けれども、フィクションと実際はまったく異なる。一部で貞子のモデルとされた実在の千里眼夫人・高橋貞子とは、いかなる人物だったのか。
福来は、千里眼の世界を初めて本格的に世に問うた記念碑的著作『透視と念写』で、貞子の「特質」として、以下の3点を挙げている。
まず第一は、「夫人の精神には本人の人格活動以外に一種の霊的第二人格の活動がある」という点だ。
この「特質」は、エンターテインメントの世界ではほぼ見落とされているが、これこそが貞子の霊能の鍵を握る最も重要な特質なのだ。
福来のいう「霊的第二人格」とは、心霊学でいう守護神・守護霊、また特定の分野に関する指導や導きを担当する指導霊を指している。
当初、福来は、霊能を千里眼者個人が持っている特殊な能力ととらえていた。けれども貞子と実験を続けていくうちに、彼は千里眼者の背後で働いている心霊──福来の表現でいう「霊的第二人格」が、いかに重要な役割を果たしているかに気がついた。
福来は、はこう書いている。
「(この人格は)常に夫人の守護神として活動し居たるものであるが、夫人の透視能力を得て以来は益々活発に活動するようになったものである。夫人に対して種々の霊示を与え、その能力の出現及び発展に就きて非常に深き関係を有して居る。而して夫人はこの霊示に従って一身を処して行きさえすれば、身体は健康となり、能力は発展するものであると信仰して居る」
福来のいう「霊的第二人格」は、貞子の場合、3人いた。第1は「守護神」というだけで、名を明かしていない。神が名を明かさないのは通常のことで、異とするにはあたらない。
第2と第3は守護霊で、こちらは名を明かしている。母方の祖先である高祖父の遠藤政元と遠藤山城守だ(祖先については次章)。両者は貞子に憑り、いろいろと指導や導きを行っていた。福来はこう書いている。
「この霊格の内にて、守護神は威神力の最も現著なるものであって、夫人の霊能発展につきて根本的に重要なる関係を有するものであることが、その後の研究によりて明白になって来た」
貞子は守護の神霊と、トランス状態で、また夢やプランセットで交信した。自身の霊能によって透視や念写を行うというより、背後の心霊が力を貸して貞子から霊能を引き出していることが明らかになってきたのである。
このことは亀井三郎、三田光一、本吉嶺山ら、筆者が連載でとりあげてきた傑出した物理霊媒に共通している。さまざまな心霊現象は、霊能者個人の能力というより、霊能者の能力と、霊能者の背後についている霊団による共同作業なのである。
福来が指摘した特質の第2点は、非常な無欲ということだ。
貞子は「能力を利慾問題の為めに利用することに対して絶対的に反対」で、利慾が絡むことを「蛇蝎を悪むよりも甚だし」く憎んだ。この潔癖さは、もちろん本人の信仰や生まれ育ち、背後霊の指導などに由来するのだが、夫の宮二が貞子と同様の主義主張の持ち主だったことも大きい。
特質の第3点は、「忘れる」ということだ。これもしばしば霊能者に見られるものだが、貞子は度外れており、2時間ほど前に経験したことは、「何事でも全部忘れて」しまった。
これは守護霊が働いてそのように導いていたらしい。「二時間以前の事は忘れさせてしまうと言う霊示が二、三度与えられ」ていたと福来は書いている。忘れる力がなければ、人はしばしば潜在意識の妄念の捕囚となる。これは一種の予防措置なのだ。
貞子には、こうした顕著な特質があった。呪いなどとはいっさいかかわりはもっていなかった。
次章以下で、その実像を追っていくことにしよう。
(文=不二龍彦)
webムー編集部
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