一枚足りない…皿屋敷の類話”数える怪談”/妖怪補遺々々
ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」! 今回は、有名怪談のひとつ、「皿屋敷」の類例のなかから補遺々々します
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メキシコでもっとも有名な幽霊「ジョローナ」には、かつて売国奴の汚名を着せられた悲運の女性がいた。
古代遺跡が数多く眠り、UFOや呪術文化も分厚いミステリー大国メキシコには、「幽霊」にまつわる逸話も多数ある。
そのメキシコで最も有名な幽霊といえば、泣き女「ラ・ジョローナ(ラ・ヨローナ)」であろう。誰でも1度は親から「ジョローナに連れ去られるぞ」と脅されたことがある、というほどポピュラーであり、今なおその存在が信じられている。
泣き女という通称からして、その姿は女性だ。白いドレスに腰までのヴェールをまとった長い黒髪の女性で、夜な夜な、亡くした子供を探しさまよい歩いているとされる。そしてジョローナに遭遇してしまうと、子供の身代わりとして連れ去られてしまうのだという。

子供を連れ去る妖怪や幽霊の話は世界各地に多々あるが、メキシコで「ラ・ジョローナ」の伝説が生まれたのはスペイン植民地時代。いわゆる”身分違いの恋”から始まっているようだ。
伝えられるところによると、貧しくも美しい先住民の女性がスペイン人征服者の男性と恋に落ちた。女性は周囲の反対を押し切り、子供を出産。3人の子供に恵まれたが、あろうことか男性は先住民の女性と子供たちを捨て、祖国スペインの上流階級の女性と結婚してしまったのだ。
女性は、男性の欺瞞と裏切りに深く絶望。正気を保てなくなり、ついには3人の子供を連れ入水心中してしまう。亡くなった4人の遺体は近所の人々によって手厚く埋葬されたが、女性は子供の命を奪ってしまったことを悔やみ、「ラ・ジョローナ(泣き女)」となり、子供を探しさまよい歩くようになったのだという。
逸話として伝わるものの、ラ・ジョローナにはモデルがいるという説もある。諸説あるものの祖国アステカ王国(現在のメキシコ)に滅亡をもたらした女性、ラ・マリンチェがラ・ジョローナのモデルになったと言われているようだ。

マリンチェはその美貌と知性で、奴隷の身分からスペイン人征服者エルナン・コルテスの恋人となった人物である。今でこそメキシコに新たな世界をもたらした『メキシコの母』として神話化されているが、攻め入ったスペイン軍に協力した女性として、長らく「裏切り者」「売国奴」の代名詞であった。
マリンチェはコルテスとの間に男児を授かるも、アステカ滅亡から6年後、25才の若さで死亡。当時4才だった男児はマリンチェ亡き後、スペインで暮らしたと記録にある。
彼女の波乱に満ちた人生と子供を思う気持ちがラ・ジョローナ伝説へと化したのだろうか。そこにはメキシコ混乱の歴史が背景にあるようだが、いずれにせよ悲しい話である。
中南米を中心に広く知られているラ・ジョローナの伝説だが、地域によって多少の違いはあるものの、概ね同じような内容のようである。そして驚くことに、今もその目撃が絶えないというのだ。
最も有名なものだと、2016年。メキシコシティの交差点に設置された監視カメラが捉えた映像がある。画面中央に映っている、長い黒髪に白いドレスを着た不気味な人影をご覧いただけるだろうか。動画では、交差点中央にふっと現れ、車を通過する様子がはっきりと捉えられているのだが、この姿に現地では「ジョローナが現れた!」として大きな話題となり、現場となった交差点では野次馬渋滞が発生するほどの騒動となった。その真偽はさておき、他にも様々な場所で目撃が報告されるほど、広く知られている存在なのだという。

余談だが、「ムー旅メキシコ」ではミステリースポットのみならず、アステカ王国征服の立役者であるエルナン・コルテスに関わる場所にも立ち寄っている。モノレス州にある『ハシエンダ・デ・コルテス』は、1530年にコルテスが建設したサトウキビ工場を改装したレストランで、20世紀初頭までコルテスの子孫が代々保有していた歴史ある施設だそうだ。

ここはマリンチェの死から3年後の1530年に建設されたとあり、彼女がこの地を訪れていたことはないだろう。だが今も、いたるところにスペイン入植の歴史を色濃く残す建物が点在していることから、泣き女「ラ・ジョローナ」の時代を感じられる場所だ。食事とあわせて、マリンチェの足跡をたどるのも面白いかもしれない。

遠野そら
UFO、怪奇現象、オーパーツなど、海外ミステリー情報に通じるオカルトライター。超常現象研究の第一人者・並木伸一郎氏のスタッフも務める。
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