怪僧グリゴリー・ラスプーチンの基礎知識 ロマノフ王朝を操り、帝政ロシアの崩壊を予言した男/羽仁礼・ムーペディア
毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、皇帝夫妻の寵愛を受けて国政を操り、やがて帝国に崩壊をもたらした、ロシア史上類を見ない怪人
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悪魔が通ったのか――。大雪の翌日、一夜のうちに不気味な足跡が260キロもの距離にわたって刻まれていた。雪が積もった誰もいない深夜、ここぞとばかりに悪魔が大手を振って闊歩していたのだろうか。
1855年2月9日の朝、英デボン州とドーセット州の地元住民が目を覚ますと、一面に広がる雪景色に途切れることなく不気味な足跡が一直線に続いている光景が目に飛び込んできた。
雪が降った深夜にいったい誰が歩いていたのかと懸念した住民が足跡を辿ってみると、なんとそれは際限なく延々と続いており、後に260キロもの距離にわたっていたことが判明する。一夜にしていったい誰が、いや何がこのような長距離を単独で通行していたというのか。
足跡をよく見ると、人間の靴の跡というよりもウマやヤギのヒヅメのようであった。しかしその種の動物であれば四足歩行を示す足跡になるはずが、この足跡はまるで体操選手が平均台の上を歩いていたかのように一直線に刻まれていた。
中世ヨーロッパの「悪魔」のイメージは、ヤギを彷彿させるものが多く、その足先はヒヅメになっている。大雪の夜に、何かおぞましいことが起きたのではないかと恐れた一部の人々は、これはきっと悪魔の足跡であると主張し、後に「デボンの悪魔の足跡」と呼ばれる都市伝説となったのだ。
それぞれの足跡は長さ10センチ、幅8センチで、各ステップの間隔は20~40センチであった。
足跡の起点はデボンの港町・エクスマウスで、そこから北上してトップシャムからエグゼ川を渡り、西にカーブして南下し、U字を描いてテインマスに到る260キロの行程に及んでいた。
足跡は地面の上だけではなく、時には建物の屋根の上や雪が積もった干し草の上や、まさに平均台を歩いたかのように塀の上にも続いていた。足跡の目撃はデボン州全域の30カ所から報告された。
深夜に雪が止んだ時間帯から夜明けまでは6時間ほどであり、この間に足跡が刻まれたのだとすれば、平均時速43キロほどで進んでいたことになる。歩行者としてはとてつもない速さだ。この出来事は、ニュースでも驚きをもって報じられた。
「迷信深い人々は、それらがサタン自身の痕跡であるとまで信じています」(当時の報道記事)
当時この「悪魔の足跡」の謎を調査した数人の司祭がいたことが1950年になってわかっている。1850年代にG・M・マスグローブ牧師をはじめとする数人の司祭が、クリスト・セント・ジョージの牧師であるH・T・エラコムに手紙を書き、デボン州のさまざまな教区で起きた「悪魔の足跡」現象を詳述し、簡単な図解も描いていた。
またニュース週刊誌『イラストレイテッド・ロンドン』のアーカイブには「悪魔の足跡」のイラストが保管されていることも後にわかっており、収められていたファイルには「非公開」と記されていた。おそらく司祭らが同誌に情報を提供していたのかもしれない。
ウェールズの歴史家で作家のマイク・ダッシュは、入手可能な一次資料と二次資料を照合して『The Devil’s Hoofmarks: Source Material on the Great Devon Mystery of 1855(悪魔の蹄跡:1855 年のデボン大謎に関する資料)』というタイトルの論文を作成し、1994 年に『Fortean Studies』誌に掲載された。
この謎の足跡は本当に“悪魔の足跡”なのだろうか。いくつのかの仮説があるようだ。
●気球説
作家のジェフリー・ハウスホールドは、デボンポート造船所から誤って放たれた「実験用気球」が係留ロープを2本垂らしながら進んだことで、ロープの先端がこの謎の跡をつけたと示唆している。しかし、朝になってその気球が誰にも目撃されていないのは不自然である。
●ネズミ説
ネズミなどのげっ歯類が飛び跳ねることによって作られた可能性も示唆されている。ネズミが雪の上を“ホッピング”してこのような跡を残すケースがあるという。しかし、これほどの距離を同時多発的にネズミが飛び跳ねたとは考えられない。
●カンガルー説
近くにある私設動物園のカンガルーが逃げ出したという話もまことしやかに囁かれているようだ。
●アナグマ説
一帯の山間部にはアナグマが生息しており、冬眠から早くに目覚めたアナグマがエサを求めて歩き回っていたのではないかとの説もあるようだ。しかし前述の通り、足跡は四足歩行動物のものではない。
●UMA説、エイリアン説
UMA(未確認生物)とエイリアン(宇宙人)によるものであるという見解も少なくない。
●複数の要因の組み合わせ
前出のマイク・ダッシュは超自然的な介入を除いて、どの仮説もすべての要素を単独で説明できるものではないと結論づけている。こうした仮説のいくつかの要因が組み合わさったものである可能性があるということだ。
また、この事件は誰かのいたずらやでっちあげだったという見解もあれば、実際には何の関係もない足跡が結びつけられた集団ヒステリーだったと考える者もいる。残念なのは、雪解けと共に足跡がすぐに消えてしまったことである。こうしたことから「悪魔の足跡」の謎が解ける可能性はきわめて低いと言わざるを得ない。
確かなことは、この謎は今も人々を魅了し続けており、そして明確な説明がないということは本物の“悪魔の足跡”だったのだと堂々と主張できることにもなる。真実が何であれ、この物語はデボン州の民間伝承にしっかりと刻み込まれており、世界中に知られている未解決ミステリーなのだ。
【参考】
https://www.dailystar.co.uk/news/latest-news/unsolved-mystery-devils-hoofprints-stretched-30829619
https://en.wikipedia.org/wiki/Devil%27s_Footprints
https://www.discoveryuk.com/mysteries/the-mystery-of-the-devils-footprints/
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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