自動車はなぜ怖かったのか? クルマの都市伝説とホラー映画/昭和こどもオカルト回顧録
黄色い救急車、白いソアラ、赤いスポーツカー……。身近な自動車がなんとなく恐ろしくもあった時代の噂話を回想する。
記事を読む

アフリカ・ケニアの村では暗闇の中を裸で疾走する“ナイトランナー”が出没するという。いったい誰が、何のために、深夜の村を駆けまわっているというのか――。
日本の都市伝説では、路上を高速で移動する「ターボばあちゃん」などの高速疾走系ヒューマノイドの言い伝えがあるが、アフリカ・ケニアには実に不可解な“迷惑系”ランナーが夜な夜な出没するという。深夜に限って姿を現すことから「ナイトランナー」と呼ばれているこの人物は、いったい何のために村を走り回っているのか。
顔と素性を隠した地元民であるナイトランナーは、暗闇の中を裸で走り、普段は平和な田舎の村を不安と混乱に陥れる。彼らは深夜に家屋の壁を叩いたり、屋根に向かって小石を投げたり、水を撒き散らしたりして寝静まっている家人を起こすなどの迷惑行為をはたらくのである。
ケニアの田舎の家庭では、昔から何世代にもわたってナイトランナーの被害について話題にしてきたが、不思議なことに彼らがどういう人物なのかずっと謎のままであった。
ある伝承によれば、ナイトランナーは悪霊に取り憑かれた村人で、夜になると村を走り回り、隣人に恐怖を与えるといわれている。しかし、どんな人物がナイトランナーなのか、何が彼らを動機づけているのかは村の人々にもよくわかっていないのだ。
ナイトランナーを研究した唯一の研究者、ケニア工科大学のトム・クワンヤ氏は、ケニアでは先住民族に対する偏見のためこのような伝承文化の研究が決定的に停滞していると言及している。
クワンヤ氏は現地の人々へのインタビューと、1901年に遡る文献の研究を通じて、夜に家屋のトタン屋根に小石を投げたり壁やドアをノックするなどの奇妙なことをするナイトランナーとは、あらゆる所得階級、男女を問わず地元の一般の人々であると結論づけた。
「(ナイトランナーの)基本的な目的は運動ではなく、被害者を怖がらせたりからかったりすることです」(クワンヤ氏)
このようにナイトランナーは迷惑な存在ではあるのだが、人々に直接危害を加えることはない。しかし、夜道で彼らに出くわして驚いて転んで怪我をしたり、まれにだが驚きのあまりショック死するケースもこれまでに起こっているという。
農村地域だけでなく都市部でも、ナイトランナーは継承されているという。ナイトランナーの子供がナイトランナーになるケースも多いということだ。また。興味を持った者がナイトランナーに教えを乞うて受け継ぐこともあるという。
好奇心に駆られ、趣味でナイトランナーになった者の多くは身分を明かして活動しているということだ。1975年に出版された著書『Fire and Vengeance』では、ホーマ郡の高校で教師をしていたヨーロッパ人男性が、どのようにしてナイトランナーになったのかが記されている。
伝統的にケニアでは魔術への信仰が一般的であることから、このナイトランナーも超自然的な意味合いを帯びているともいわれている。
また夜のランニングは呪いであり、呪いにかかった者はそれに抵抗して夜に走らないでいると転落死してしまうとの言い伝えもあるようだ。
そして人々の中には罠を仕掛けてナイトランナーを捕えようとしたり、呪文をかけて全身を麻痺させようとする者もいるという。殴られたナイトランナーもいるということだが、少なくない村ではナイトランナーを攻撃する人は自分自身もナイトランナーになると信じられているため、こうした暴力事件は頻繁には起こらないということだ。
それでもナイトランナーは捕まることがないように慎重に行動しているという。
このように伝統的には魔術の世界に属していると思われているナイトランナーだが、元保健行政職員のアスマン・ズベリ氏は「それは魔術とはまったく違います」と説明する。
「この人たちはあなたに危害を加えるわけではありません。……彼らの主な目的は、ただやって来て、あなたの夜をできるだけ不快にさせることだけです」(ズベリ氏)
ご存知のようにハロウィンやクランプス祭、あるいは日本の「なまはげ」などのように、人を怖がらせたり驚かせたりする祭りや風習は世界各地にあるが、ナイトランナーも広い意味でそうした習俗ということになるだろうか。
しかしながら商業化されていない伝統文化の例に漏れず、このナイトランナーの伝承もまた現在は衰退しつつあるようだ。
ケニアの田舎町でも電気が普及し、家屋がコンクリート化するなどしていることから、ナイトランナーの活動は妨げられる一方であり、それを押し切って強行すれば単なる犯罪になってしまうだろう。
かつてはミステリアスな存在であったナイトランナーが、今や街灯で照らされ防犯カメラが設置された町で行き場をなくし、活動中止に追い込まれる日は残念ながらそう遠くはないのかもしれない。
【参考】
https://www.atlasobscura.com/articles/night-runners-kenya
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
関連記事
自動車はなぜ怖かったのか? クルマの都市伝説とホラー映画/昭和こどもオカルト回顧録
黄色い救急車、白いソアラ、赤いスポーツカー……。身近な自動車がなんとなく恐ろしくもあった時代の噂話を回想する。
記事を読む
石こうに包まれた死体の怪談と事件 村上ロック「石こう詰め」/吉田悠軌・怪談連鎖
怪をつむぎ、ひもとき、結びつけていく「怪談連鎖」。歌舞伎町で夜ごと怪談を語り続ける怪の伝道者から、「匂い」にまつわる不可解な話が披露される。
記事を読む
筆を投げたら”霊字“が出現!? 知られざる明治の行者・高橋宥明上人/武田崇元
弘法大師から霊力を授かり、数多くの奇跡をなした明治の行者・宥明上人。常に民衆とともにあり、各地を遍歴して病人を癒しつづけたという謎多き「超能力者」の生涯を辿る!
記事を読む
「地図から消えた海岸」に女幽霊が出現! 44歳を招く因縁の心霊スポットで撮影した人影の恐怖/夜馬裕
千葉県に存在する「地図から消えた海岸」そこではかつて、44歳の男女が事件や自殺で立てつづけに亡くなったという。現地に赴いたのは怪談師・夜馬裕。44歳を迎えた年に、そこで不可解な写真を撮影してしまった…
記事を読む
おすすめ記事