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田中貴子 著
歴史上3度目にして、世界的なものになりつつある「晴明現象」とは何なのか?
安倍晴明。ご存じ、平安時代の大陰陽師である。現在では、文字通り神格化されて、都を襲う怨霊や鬼神相手に秘術を尽くして戦う、超能力者にして白皙の美青年、といったイメージが一般には流布している。
だが「実際には一介の官吏に過ぎなかった」とか、「活躍の記録が見られるのは65歳を過ぎてから」とか、彼の実体は、かなり地味なものだったらしい。
ところがこの晴明、死後100年ほどたった院政期になると、『大鏡』や『今昔物語集』など、説話の主人公として俄然注目を集めるようになる。いわば一種のブームである。
さらに近世、17世紀になると、晴明は狐の子であるという「葛の葉伝説」が生まれる。それが説教や浄瑠璃歌舞伎などに採り入れられて、晴明は再び脚光を浴びる。
歴史上に2度起こった、晴明に対するこのような関心の高まりを、著者は「晴明現象」と呼ぶ。そして著者によれば、いま現在、小説や漫画、それに映画と、新たな媒体を舞台に、歴史上3度目に当たる「晴明現象」が生じているというのだ。
本書は、この「晴明現象」とは何なのか、この現象に託された人々の心性とは、どのようなものであったのかを探る試みである。
著者の田中貴子氏は、中世説話などを専門とする国文学者で、甲南大学教授。世にあふれる「晴明本」とはひと味違う、学問的にも厳密な啓蒙書となっている。
それはそうと、本書で紹介されている現代の作品は、夢枕獏『陰陽師』(およびその漫画版)や、荒俣宏『帝都物語』など、一昔前のものばかり。それもそのはず、実は本書は2003年に「講談社選書メチエ」の一冊として出版されていた同じ標題の単行本、つまり20年前の本の文庫化なのであった。
この20年間に、陰陽道に関する学術研究は飛躍的な進歩を遂げているが、この文庫版では、巻末の「あとがきに代えて」の部分で、過去20年間の主要な研究が抜かりなく抑えられているから、心配はご無用。
今年は、夢枕版『陰陽師』が初めてアニメ化され、Netflixを通じて全世界独占配信されるというから、「晴明現象」も世界的なものになりつつある。本書の文庫化は、まことに時宜を得た企画といえよう。

(2023年10月号掲載)
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