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イギリスの民間伝承では、恐ろしい黒い犬「ブラックシャック」についての話が残されている。獰猛な野犬か、それともUMAなのか――。長きにわたる議論を俯瞰する。
イギリスの民間伝承には、「ブラックシャック(Black Shuck)」と呼ばれる悪魔的な黒い犬(黒妖犬)についての言及がある。1850年に雑誌『Notes and Queries』で紹介され、その存在が一躍有名になった。
オックスフォード英語辞典によると「シャック(shuck)」という名詞は、古英語の「scucca(悪魔、悪霊)」や「skuh(恐怖を与える)」に由来する。果たして、この生物は本当に存在するのか。そして、何世紀にもわたる多数の目撃例をどう解釈すればよいのか。

豪フェデレーション大学の歴史学者で人類学者のデイビッド・ウォルドロン博士によると、同様の現象はイギリス全土のみならずヨーロッパ全体やアメリカでも見られ(ヘルハウンドや黒妖犬の伝承)、戦争や疫病などの大惨事の前兆、あるいは目撃者の死の前兆とされることもあるという。
ブラックシャックの目撃証言には解釈が難しい場合も多いが、多くは遭遇した際に「明らかに違和感を覚えた」と述べている。最も古い記録の1つは、「皿のような目をもつ真っ黒な猟犬」について記述した『ピーターバラクロニクル(Peterborough Chronicle)』という1127年の書籍である。
同書によると、同年の秋から冬にかけて、ピーターバラの町の公園や森のいたるところで正体不明の無気味な猟師たちと、彼らが引き連れている恐ろしい目をした真っ黒な猟犬が20~30匹ほど目撃された。
ブラックシャックの正体については、未発見の野生の犬の一種である可能性も囁かれているが、ケンブリッジ大学卒の環境人類学者ジョナサン・ウーリー氏は、(ブラックシャックは間違いなく存在するものの)野良犬がこのような複雑かつ超自然的な現象の原因である可能性は低いと述べる。
ブラックシャックが起こした凶悪事件として知られているのは、1577年8月4日にイーストサフォークのブライスバーグにある「聖トリニティ教会」の襲撃だ。
この時、激しい嵐の最中でブラックシャックが教会に押し入り、礼拝中の男性と少年を殺害して建物の尖塔を倒壊させたといわれている。地元の人々は、教会の扉に残された「悪魔の指紋」として知られる爪痕はブラックシャックによるものだと信じている。
さらに驚くべきは、同日にバンゲイにある「聖メアリー教会」でも別のブラックシャック事件が報告されていることだ。同教会のアブラハム・フレミング牧師によると、黒い犬が信者2人の首を折って殺害したという。敬虔な聖職者であったフレミング牧師は、この事件を「罪に対する戦いの呼びかけ」と解釈し、ヨーロッパの民間伝承に浸透してきた破滅の前兆としての存在になぞらえた。
これら2つの教会で起きた事件から400年以上が経った現代でも、ブラックシャックの目撃情報は数多く報告されている。1973年にウッドブリッジのオールド・バラック・ロードでバイクを走らせていたキース・フローリー氏は、黒い犬に追いかけられたと証言している。
最近では、元新聞販売員のナイジェル・ソープ氏が、グレートヤーマスの寂しい道で、目を光らせた大きな犬が自分に向かって飛びかかってきたと報告している。
前述のウォルドロン博士は、ブラックシャックに遭遇したと主張する多くの人々から直接話を聞いたが、遭遇者たちの深い宗教的体験が反映されているケースが多いという。博士は「このような話を聞くのはきわめてデリケートな作業だ」と述べ、遭遇事件の多くは秘めた願望に基づく誤認や錯覚である可能性が高いと語る。しかし、それでは片づけられない話も少なくない。
はたしてブラックシャックとは単なる伝説にすぎないのか、それとも信仰が生んだ錯覚か、凶暴化した野犬か、あるいは恐ろしいUMAなのか? 新たな目撃情報にも注目していこう。
【参考】
https://anomalien.com/saucer-eyed-hellhound-scientists-unravel-east-anglias-demonic-dog-mystery/
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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