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ヴェネツィアで発見された、16世紀のものと思われる女性の遺骨。レンガ(石塊)を口にくわえた異様な状況は、彼女が「吸血鬼」であることを示しているのか──。
問題の遺骨はイタリア、ラッツァレット・ヌオーヴォ島の集団墓地から2006年に発掘されたもの。骨格の状態から、女性が60歳ごろに死亡したことは判明していたが、なぜレンガをくわえていたのか詳細な記録は残されていない。しかし、16世紀のヨーロッパではペストが蔓延しており、多くの犠牲者を出していた時代。人々の間で吸血鬼に対する恐怖も広がっており、レンガをくわえさせたのは、ペスト感染者の死体から血をすすらせないようにする意図があったと考えられてきた。

だとすれば、生前の女性は吸血鬼と周囲から見なされ、死後に再び動き出して吸血行為に及ぶことを恐れられていた可能性が高い。死してなお吸血鬼が活動すると人々の間で信じられていた要因として、腐敗ガスなどによって死体が膨張する現象が挙げられる。当時の科学では、「他の死体から吸血したために膨張した」と考えられていたのだ。

ペストは「黒死病」と呼ばれ、ヨーロッパで5000万人以上の命を奪った。当時の科学的知見を考慮すれば、人々は現代以上に疫病に対する恐怖心を抱いていたはずだ。特にラッツァレット・ヌオーヴォ島は1400年代から1700年代にかけてペスト患者の検疫所として機能しており、死体が身近な場所でもあった。現代では非科学的と考えられても、当時の人々は「吸血鬼が犠牲者の血を吸うことで疫病がさらに広まっている」として、吸血鬼(と見なされた人)が他者の血を吸えないように遺体に手を加えていたのかもしれない。

とはいえ、人間の口のサイズで、あの厚みのレンガをくわえることなどできるのだろうか。この度、ブラジルの法医学専門家で3Dイラストレーターのシセロ・モラエス氏は、ソフトウェアを使って頭蓋骨から女性の顔を復元。さらに、レンガも発泡スチロールで再現してさまざまな分析を行った結果、女性の口内や歯を傷つけることなく(つまり死後に)レンガを挿し込むことが可能であると判明したのだ。
レンガをくわえた遺骨が見つかったように、よく知られた「吸血鬼への対処法=心臓に杭」ばかりではない。アメリカ・コネティカット州では、200年以上前に埋葬された男性の亡骸が、交差した大腿骨を胸の上に乗せられた状態で見つかった。しかも、一旦墓が掘り返された跡があり、なんらかの原因で男性が吸血鬼だと後々になって疑われ、死体が動き出さないよう改めて対処した可能性がある。

また、口にくわえたレンガの類似例として、ポーランドでは口に小石が入れられた遺骨も発見されている。この遺骨は、さらに片足が杭で止められていたことから、吸血鬼に対する執拗なまでの警戒心がうかがえる。同じくポーランドで首元に鎌が置かれた遺骨も発掘されたりと、吸血鬼と思われる遺体は奇妙な形で埋葬されることが多い。
いまなお語り継がれる吸血鬼伝説。その正体は、未知なる脅威に対する人々の恐怖心が具現化したものなのだろうか。いずれにしても、吸血鬼と疑われた人々は生前も、そして死後もむごい仕打ちを受けていたのだろう。
webムー編集部
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