魔術的技法で生みだされた人造人間「ホムンクルス」の謎/羽仁礼・ムーペディア
毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、容器の中で人工培養によって生みだされる小さな人造人間「ホムンクルス」について取りあげる。
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17世紀、とある博識の人物が“妖精の世界”にむりやり連れて行かれたという驚きの体験を語っている。2人の証人もいるその驚愕の“フェアリーテイル”の内容とは――!?
日本では「神隠し」と呼ばれたりもする不可解な失踪事件は世界中で報告されているが、その中には当人が戻ってくるケースもある。いったい今までどこへ行っていたというのか。
17世紀のアイルランドで出版された「Strange and Wonderful News(奇妙で素晴らしいニュース)」という小冊子には、同国のウィックローで起きたという奇妙な事件が紹介されている。
1678年、後に英ロンドンで校長になるムーア博士は故郷ウィックローの不動産を購入したが、その後すぐに購入した土地に懸念が浮上し、2人の友人とともに同地へと泊りがけで確認へ向かった。
バルティングラス近くのドラムリーと呼ばれる場所のホテルに宿泊した一行は、その夜、夕食を終えて部屋でゆっくりと雑談を交わしていたのたが、そこでムーア博士はこの辺で過ごした少年時代の思い出話を語った。その話によれば、子供の頃のムーア博士はこの地で何度も“妖精”に招かれて“妖精の国”に滞在していたというのである。

妖精に連れて行かれて頻繁に姿を消す息子の身を母親は当時ひどく案じていて、周囲に相談していたということだ。
ムーア博士の話に2人は驚きを禁じ得ず、1人は博士の精神状態に疑惑を持ちはじめてさえいたのだが、話の最中に急に立ち上がった博士は「呼び出された」と口にしたのだった。この地に帰ってきた博士は、なんと妖精に呼び出されたというのだ。
すると、ムーア博士の身体は立ったままゆっくりと浮かび上がり、友人たちは上昇を続ける博士の脚を抱えて引き止めようと躍起になったが、何らかの目に見えない力に妨害されて引き離されてしまった。そして博士はさらに浮かび上がり、部屋の天井に届く前に姿を消してしまったのだ。
何が起こったのか2人は驚くばかりだったが、宿屋の主人を呼び、連れの1人に何が起きたのかを説明した。すると意外なことに、主人はあまり驚いた様子もなく話を聞き入れたのである。
主人はこの近くに「賢者」と呼ばれている女性が住んでいることを彼らに伝え、彼女に頼めば問題を解決してくれるだろうと説明したのだった。
さっそくその女性に接触することを決めた2人だったが、少しすると、なんと女性のほうがホテルの部屋にやってきたのだ。彼女は彼らに呼ばれることを知って家を出ていたというのである。
ともあれ2人はムーア博士が今どこにいるのか女性に聞いてみると、「博士は今、ここから約1マイル離れた森の中で妖精たちと一緒に馬に乗ろうとしている」という。彼は片手にワイングラスを持ち、もう一方の手にはパンを持っているというのだ。
しかし彼女は、ムーア博士は飲食をするべきではないと説明した。そこでひとたび飲食物を口にすれば、ムーア博士は倒れるまで妖精たちの供応接待につきあうことになるというのだ。そして女性は、呪文を唱えてムーア博士が飲食できないようにしたのだった。
女性によれば、ムーア博士は妖精たちに連れられてこの一帯の砦や教会などを次々と訪れ、飲み放題食べ放題の宴に参加させられているという。しかし、彼女の呪文のおかげで飲食物がすぐに手を離れてどこかへいってしまうようになったらしい。そして、朝まで続く宴で最後まで何も食べないでいれば、ムーア博士はこの世界に戻ってこれるとのことだった。
驚いたことに翌朝6時、ムーア博士はホテルの部屋のドアをノックし、2人のもとへと戻ってきたのだった。
やはり最後まで何も食べたり飲んだりしなかったようで、ひどくお腹が空いて喉も乾いていると訴え、食事を要求した。
ひとまず腹を満たして落ち着いたところで、ムーア博士は事の顛末を語りはじめた。
姿を消した昨晩、ムーア博士は部屋に入ってきた20人ほどの妖精の男たちにむりやり誘拐されたのだと説明した。彼らは馬も引き連れていたということだ。もちろん2人にはそれらの妖精の姿は見えていなかった。
2人が博士の脚をつかんで誘拐を阻止しようとしていたことはムーア博士にもわかっていたが、それはまったく無駄な試みであった。
その後、ムーア博士はホテルから1マイルほど離れた森へと運ばれ、そこには別の立派な馬が用意されていた。それに乗ろうとしたとき、グラス1杯のワインと1枚のパンが与えられたが、食べたり飲んだりしようとしたところ、無残にもパンとグラスは手から落ちてしまったという。
ともあれ、その森からさらに11マイル離れた砦まで移動したのだが、馬が早かったためすぐに着いたのだった。

砦の宴会会場では、すでに300人ほどの大柄で均整のとれた身体をした男女の妖精がいて、首長らしき者は栗毛の馬に乗っていた。そして全員が揃うと、みんな馬から降りて踊り始めたのだ。ムーア博士がダンスを先導する番がくると、博士はつつがなくダンスを披露したのだった。
砦での盛大な大宴会が終わった後は、今度は周囲の教会を続けざまに訪れて中規模の宴会が行われた。この間にも、ムーア博士は食事を勧められたり、食べ物を手に取る機会があったのだが、次の瞬間にはそれは手から零れ落ち、結局最後の宴が終わるまでは何ひとつ口にすることなく、妖精たちとの“どんちゃん騒ぎ”は終わったのである。そして夜明けが近づくと、ムーア博士はこのホテルの近くで一人で立っていたのだった。
ムーア氏から驚愕のストーリーを聞かされた友人の1人が、好奇心に駆られて大宴会が行われたという砦に行ってみると、一帯は確かにさっきまで500人ほどが集まっていたのではないかというほどに草が踏み固められ、地面が荒らされていたということである。
この不可解な話は当時地元でニュースになり、1678年11月18日には法廷での証言も行われたのだった。幸いであったのはムーア博士は最後まで飲食をしなかったことだろう。ムーア氏の飲食を妨害する呪文をかけたあの謎の女性が命の恩人ということになるのかもしれない。
【参考】
https://strangeco.blogspot.com/2023/06/dr-moore-and-fairies.html
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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