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ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」! 今回は、「山の禁忌」から生じた怪異を補遺々々します。
どの地域にも「よくない場所」があります。【ケチ山】【病田(やまいだ)】【死にっ田】【ナメラスジ】など、物騒な名で呼ばれて人々から忌避されてきました。
そういった場所と関わるとロクなことにはなりません。
祟られ、怪我や病気をし、不幸になります。化け物と出遭うこともありますし、最悪の場合、命を失うこともあります。
静岡県周智郡気多村(現・浜松市天竜区)にある、じよう山(おそらく城山)は、昔は【クセ山】といわれていたそうです。よくないことの起こる山、ということです。
この山ではよく、次のような不思議なことが起きました。
大層にぎやかな神楽の音や馬鹿囃子が聞こえてくる。
茂った熊笹の上を、怪異なものが通過したとみられる1本の筋が残される。
【猅々(ひひ)】と出遭った者が、しばらく寝込んでしまった。
若い娘やお婆さんに出会って挨拶をすると、その姿が突然消えてしまう。
ーーどうも、この山には怪しいものがいろいろと棲んでいたようです。
また、4歳の子供が村からいなくなったこともありました。村中が総出で捜しますと、子供は山の頂上で見つかりましたが、そこはとても険しい場所で、失踪から発見までの時間から見ても幼い子が自力で行ったとは到底考えらなかったといいます。
人々は天狗や狐狸の仕業と考えていたようです。
次は、このクセ山にまつわる、なんとも気味の悪いお話です。
このクセ山で、共同で山仕事を始めようとしている1組の人たちがいました。ですが、仕事を始める前から大きな問題が生じ、仕事をすることができません。
「7人」だったのです。
この山では古くから、7人になることは禁忌とされていました。ですから、山仕事をする人たちは7人にならないよう、人数を調整していました。ところが、この人たちには事情があって7人から増減させることはどうしてもできず、だからといって山の禁忌を無視するわけにもいきません。
そこで考えたのが、代役をたてることでした。
今の7人にひとり加えて、8人にするのです――といっても、これ以上は人を増やせません。ですから、仕事場の近くに生えていた杉の木を8人目としたのです。
その杉の木に「八蔵」と名を与え、仕事道具もちゃんと8人分揃えました。毎日、交代で八蔵のぶんの弁当も用意しました。「よう、八蔵」と話しかけることもありました。
そんな状況が何日も続いた、ある日のことです。
「おう八蔵、そろそろ一服しようや。お前の煙草はここに置いておくぞ」
ーーおう……。
7人は耳を疑いました。杉の木が返事をしたのです。
幻聴ではありません。それからも八蔵はたびたび、呼びかけに声を返したのです。
山仕事は無事に終わりましたが、【八蔵杉】は村人たちに恐れられたといいます

参考資料:橋浦泰雄『民俗採訪』
(2020年7月15日記事を再編集)
黒史郎
作家、怪異蒐集家。1974年、神奈川県生まれ。2007年「夜は一緒に散歩 しよ」で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞してデビュー。実話怪談、怪奇文学などの著書多数。
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