77年と7か月を経て届いた手紙の話など/南山宏のちょっと不思議な話
「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2023年10月号、第475回目の内容です。
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文=大槻ケンヂ 挿絵=チビル松村

お化けが出る前兆は、ヒヤっとした空気や頭痛や嫌な匂いでもなく……「ヒュ~ドロドロ……」を期待してしまう。
子供の時のことだ。
夜、一つ歳上の兄とテレビを観ていたら急に家の灯りがバン!と消えた。当時ちょうど「悪魔の棲む家」(80) という霊現象の起こる家の映画が流行っていた頃だから『え! 大槻家にもついに!』とそれは兄弟大いに震え上がったものだ。
後にそれはブレーカーが落ちたことが原因とわかるのだが「霊だよ! これ霊だよ! やばい!」と弟は兄にしがみついた。すると兄が真顔で弟に言ったのだ。
「大丈夫だ!まだ太鼓が鳴っていない」
昭和の怪談と言えば幽霊が出る直前にドロドロ~と太鼓が鳴ってムードを上げるのが定番であった。それはあくまで演出的効果音なのであって霊現象そのものとは何も関係無いと思うのだけど『なるほど兄ちゃんの中では太鼓の音こそがオバケ登場の始まりという認識なのか』と闇の中で弟は妙に感心したものだ。
「三茶のポルターガイスト」事件においては、太鼓の音ではなく線香の香りがオバケ登場の始まりと認識してよいようだ……。世田谷区の三軒茶屋にある老朽化したビルに、ここ何十年、ほぼ毎日、幽霊が出現するのだそうだ。特にビル4階にある演劇稽古場「ヨコザワ・スタジオ」では、ラップ音やポルターガイストが頻発し、置いてあるボードが揺れ時計が飛び、そして天井その他の場所からにょき~っと白い手が現れて、5本の指をくねらせてまた天井その他にす~っと引っ込んで消えて行くというのだ。そしてそれらの心霊現象が起こる時、必ずあたりには線香の香りが立ちこめるのだという。
「…線香…で、銘柄はなんですか?」
先日イベントでお会いしたオカルト編集者の角由紀子さんに僕は思わず尋ねたものである。
角さんはヨコザワ・スタジオの怪事を御自身のYouTubeなどで取り上げた方で、これは大評判を呼び、今年ついに角さんメインで映画化。「三茶のポルターガイスト」として劇場公開された。驚くべきことに、映画には実際の各怪現象が全て映像に捉えられている。しかし、線香の香りまではそりゃ映像だから不可能だ。だから、尋ねた。
「角さん、幽霊って具体的にどこの線香使ってるんでしょうね。やっぱり『青雲』とかですか」
角さんは「さぁ」と一呼吸置いてから「『青雲』とかじゃないですかねぇ」と答えてくださった。
幽霊は登場する前に『青雲』を焚く。
事実ならばこれは心霊現象史に残る大発見だとも思うし、『実家で使ってるやつと一緒だ!』と親近感さえわくものだ。それより気になるのは“手”である。僕も映像で観た。
白いゴム手袋をはめたような肘から先の手が、天井から下にのびてきて指をクネクネと動かすのだ。掌だけを物かげから出して指クネするバージョンもある。いずれにせよけっこうハッキリ映っている。ズバリ言ってCGにも見えるものの、YouTube等でスタッフさん一同「そんな予算はない」とキッパリ、ちょっと切れた感じで断言している。
誰かが隠れていて手袋をはめた手を出したり引っこめたりしているんじゃないか? との疑惑ももちろんある。何しろこの手には影さえあるのだ。しかし人力説については、隠れるスペースが無いし、その労力の意図がわからないと、ヨコザワ・スタジオの代表である演出家の横澤丈二さんは著作「日本一の幽霊物件 三茶のポルターガイスト」の中でおっしゃっている。
「あははは。私が仕掛けを作っていたらそれこそ『人怖(ひとこわ)』 ですよね。これだけの嘘をつける人間がいるとしたらそっちの方が怖い。多額の費用をかけて稽古場を最新のお化け屋敷に変え、無償で人を怖がらせて喜んでいたとしたら、だいぶおかしな人ですよ」
と、角さんとの対談で答えておられる。
でも、僕としては、もしもそうであったなら、霊現象よりも、そっちの方が断然話が面白くなってくるよなぁ、と、無責任に思ってしまうのだ。
だって、そうでしょう。多額の費用をかけて三茶の稽古場を(賃料だって安くはないだろうに)最新のお化け屋敷に変え、無償で人を怖がらせて喜んでいる方がもしいるとしたら、それはだいぶおかしな人ではあるけれど、逆に言えば、こんなに興味深い人もいないではないか。いやこれは別に、横澤丈二さんがそれを仕掛けているのだと言っているわけではけしてないのです。誰でもいい、誰であっても、いかなる人物の仕業であっても、幽霊が存在するしない以上に、そんなことわざわざやっている人がもしもいるなら、僕は「それが一番面白い!」と感じる。
だって、この現代に、フェイク心霊動画だってありあまるほどあるこの令和に、手袋はめて天井から手をのばして指クネクネさせるって、どんだけ昭和感あふれるオバケ芝居なんだよ、ってことですよ。わかりやすい。潔い。
そしてさらにその前にコツコツと、「青雲」に火を灯してオバケ登場の気配演出をセッティングしているその人のことを思うと、キャンドル・ジュンさんなみのムード・メイカーでもあるじゃないですか。感心してしまいます。
もしかしたら一人はなくで複数でやっているのかもわからない。
インカム付けて「行けるか、手!?」「はい! あっ、ちょ、ちょっと待ってください!」「なんだ!? どうした!」「な、無い」「無い!?なんだ、手袋か?」「いえ、『青雲』が、『青雲』が切れてます!」
……一体何のために集団で人を驚かせているのか?
もしかしたらそれは彼らの“演目”なのではないだろうか?
寺山修司もビックリの実験演劇としての“ポルターガイスト劇”の公演なのか。一種の前衛芸術? ……ま、それはさすがにないか。
ただ、実話だと言われていた映画「悪魔の棲む家」は、後に事実とはかけ離れた創作であると判明した。「悪魔の棲む家」に限らず、心霊現象の歴史はトリックの歴史でもある。
心霊現象の元祖とも呼ぶべき19世紀の「フォックス姉妹事件 」にしてからが、ラップ音で霊と意思疎通できると主張する少女姉妹によって大人たちが多くだまされた。その真相は、少女がラップ音だといって、実は自分の間接の骨を鳴らしているだけだったのだ。単純すぎるトリックを人々は信じてしまった。そんなふうに人々は心霊現象にだまされ続けてきた。
だから「三茶のポルターガイスト」に関しても、僕はどうしてもまず「これ、どう仕掛けているのだろう?」と思うし、19世紀の大昔からラップ音やポルターガイストや霊の物質化など「人の霊に対する考え方って変わらないんだなぁ」となんだかしみじみもしてしまうのだ…。
でも「変わらない」ということは「それが真実だから」という考え方もできる。
使い古されて陳腐にすら思える面もあるけれど、ラップ音、ポルターガイスト、そして物質化現象はセットで心霊現場に有るものだ。それが、何故か、どういう因果でか、三軒茶屋の雑居ビルに集中して発生しているのかわからない。
一体、本当のところはどうなのだろう?
……実際に行ってみたらいいんじゃないのか?
何しろ現在進行形の幽霊物件なのだ。三茶なんてすぐそこだ。電車で行けるよ。著作で知った横澤さんの人柄も魅力的で素敵だ。お会いできたら光栄である。
角由紀子さんに紹介してもらって、もし行けるなら、実際に行ってみたいのだ。そのレポはここで書きますね!
果たして「青雲」の香りに僕は包まれるのか。
あるいはどうだろう、もしも、ドロドロ~と太鼓の音が鳴ったとしたなら「あ、コラム読んでくださったんだ。太鼓、用意してくださったんだ、ありがとう」とイキなおもてなしに僕は感動しちゃいますね。その叩き手が霊であっても人間であっても。

大槻ケンヂ
1966年生まれ。ロックミュージシャン、筋肉少女帯、特撮、オケミスなどで活動。超常現象ビリーバーの沼からエンタメ派に這い上がり、UFOを愛した過去を抱く。
筋肉少女帯最新アルバム『君だけが憶えている映画』特撮ライブBlu-ray「TOKUSATSUリベンジャーズ」発売中。
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